陶芸家 松尾 亮佑さん < First interview > 前編
第4回目の「作り手の声」は、京都・山科で作陶する松尾亮佑さんです。

松尾さんは、冷静さを保ちながらも前へ進み続ける熱い思いと、思慮深さが印象的な作り手。
実はこのインタビューの約1ヶ月前、「初めまして」からまだ2回目にもかかわらず、
二人で熱く語り合った時間が、今も記憶に鮮明に残っています。
そんな松尾さんの器は、やわらかな白の中に、金属の流れや青みがすっと溶け込む。
和にも洋にも寄りすぎない「中庸」の佇まいは、
料理のジャンルを超えて、食卓の景色を静かに整えてくれます。
前編は“はじまり”と“作風”を中心に。
後編では、使い手の声をどう制作に落とし込むのか、
そしてこれから挑戦したい新しい表現まで掘り下げていきます。
「集める」から「つくる」へ。陶芸家を志したきっかけ
もともと別の仕事をしていた松尾さん。器を見に行き、作り手と話し、少しずつ“集める楽しさ”が深まっていったといいます。
大学院生の頃、「集めるだけじゃなく、自分でもつくってみたい」と思い立ち、個展会場で作り手に直談判。
仕事を手伝いながら学び、イベントで初めて自分の器が売れたとき、心が大きく動きました。
「頑張ったら頑張った分だけ、自分の身になる仕事。ものづくりが好きだったので、天職になるかもしれないと思ったんです」
“自分の手で、価値をつくる”——その実感が、松尾さんを陶芸の道へ押し出していきます。
反対から、応援へ。家族との距離
幼い頃、お母さまが陶芸に触れていたことはあったものの、それが直接のきっかけではなかったそう。
むしろ作家活動を始めた当初は、決して喜んで受け入れられはしなかったといいます。
「目指すタイミングが遅かったのでは。そんな簡単に食べていける世界じゃない、と。だからまずは結果を出していかないと、と思っていました」
作家としてある程度食べていけるようになるまでは多くを語らず。
ただ、そこで積み上げた先で、少しずつ応援へ。
静かに、でも確かな“覚悟の時間”があったことが伝わってきました。

↑ 元はお母さまの窯が、現在は松尾さんの元で現役稼働
作風の核は「中庸」——チタン結晶釉に惹かれた理由

松尾さんの器づくりの軸にあるのは、「中庸」という考え方。
真っ白すぎない、やさしく柔らかな色味。和にも洋にも転びすぎない、どちらの空気も受け取れる器。
その出会いが「チタン結晶」の釉薬でした。
「どちらにも偏らない。どっちの要素も持っている。その性質に惹かれました」
さらに、釉薬の上に金属を流し、焼成によって“沈み込み・染み込み”が生まれる技法を重ねることで、
やさしさの中に渋さや動きが共存する表情へとつながっていきます。
“流れ”が器の個性になる。OOZE

松尾さんの代表的なシリーズのひとつが「OOZE(ウーズ)」。
OOZE には「染み込んでいく」「溶け流れていく」といった意味があり、
金属の流れが器の上でそのまま“景色”になる。さらに彫りを入れた部分にも流れが沿い、表情が深まります。
「一定のものは正直作れない。流す技法なので、個体差が激しいんです。
でも、あまり調整しない方が面白いかなと思っています」
同じシリーズでも、同じ“流れ”は二度と生まれない。
その揺らぎこそが、器を選ぶ楽しさになっていました。
前編のまとめ
松尾亮佑さんの器には、和洋どちらにも寄りすぎない「中庸」という確かな軸があります。
やさしい白の釉薬、金属の流れ、そしてOOZEシリーズに象徴される“個体差”の面白さ。
料理のそばでこそ魅力が立ち上がる——そんな器の輪郭が、前編では見えてきました。
後編では、松尾さんが大切にしている「使い手の声」と、そこから生まれる“更新され続ける器”の話へ。
結婚後の暮らしの変化や、趣味のゲームから得た粘り強さ、そしてこれから挑戦したい“もう一つの作風”まで伺います。