陶芸家 柳川謙治さん < First interview > 前編
第5回目の「作り手の声」は、栃木県足利で作陶する柳川謙治さんです。

栃木県足利市で、ご実家が営むお店の一角でお話を伺いました。
柳川さんは、引き締まった体つきとは裏腹に、ふっと肩の力が抜けたような、やわらかな雰囲気をまとっています。
会話にも、どこか急がない間があり、その余白が心地よい。
そんな和やかさが、器の佇まいにも重なって見えました。
柳川さんの作品は、染付・絵付けの施された磁器が中心。
どこか懐かしい、少し骨董の気配もあるのに、古くない。
「描き込みすぎない」こと。
はじまりは“陶芸好き”からではなかった
「独立して13年、13年ぐらいになります。」
意外だったのは、
柳川さんが最初から焼き物の世界に憧れていたわけではない、ということ。
もともとは東京で、米軍払い下げの家具をリメイクしたり、古い家具を修理したり。
モノづくりは昔から好きだったけれど、焼き物に強い関心があったわけではなかったそうです。
転機は、知人のひと言でした。
「こういう仕事もあるよ」と紹介されたのが陶芸。興味で始めたというより、“導かれるように入った”という表現がしっくりくる入り口でした。
足利は栗田美術館もあり、古美術店も多い土地。周辺地域には益子もある。
だから影響は大きかったのでは?と尋ねると、返ってきたのは、少し笑ってしまう答え。
「焼き物始めるまで、益子に行ったことがなかったんですよ(笑)」
フラットな感覚でこの世界に入れたことが、結果的に良かった。
柳川さんはそう振り返ります。
京都の訓練校、そして人気作家への3年の弟子入り
陶芸の道に入るにあたりすぐに向かったのは、京都府立陶工高等技術専門校。紹介者が京都出身で、「やるなら行った方がいい」と勧められた場所でした。そこで2年。
学校で印象に残っているのは、自由制作よりもむしろ基礎の反復。
「最初、ひと月半は土もみみたいな…ひと月以上はやってたと思います。」

作りたいものを作るというより、“職人的に、まず作れるようになれ”という時間。最後には大壺を作る課題もあったそうで、柳川さんも「でかいツボ」を作ったと教えてくれました。
その後、紹介で弟子入りしたのが京都で活躍される陶芸家・村田森さんのもと。
3年ちょっと。
ここでの時間は、いわゆる“修行”のイメージにかなり近かったようです。
「かなり忙しかったですね(笑)毎月のように個展があったんで…」
忙しい現場に身を置いた経験は、その後独立してからの土台になったと言います。
作る力だけではなく、忙しく働く体の使い方や、時間の感覚。スピード感。そういうものが身に染みた3年間だったのだろうと感じました。
“作るだけ”から始まった独立。営業も、SNSも苦手で
栃木に戻り、独立。
最初は売り先もなく、「何も考えずに、とにかく作ろう」という日々。
今のようにSNSが当たり前ではなかった時代、飛び込み営業にも行ったといいます。
「若い時だからできたことで、もう難しいかな(笑)」
では今は、時代が変わって楽になったのでしょうか。
柳川さんは「多少、作ることに重点を置けるようになった」と言いました。
これは、作り手にとって大きい変化です。
一方で、SNSはやはり得意ではない。
お客さんに「やらないの?」と聞かれながら先延ばしにしていたけれど、さすがに…と始めたのがInstagram。けれど、アップデートで操作が変わるたび、よく分からなくなる。そんな話も、気取らず笑いながら。
「検索できればいいかなぐらいなんで。」
この言葉が不思議と頼もしく聞こえたのは、柳川さんが“見せ方”ではなく、あくまで“作ること”に軸足を置いているからかもしれません。
料理を邪魔しない絵付け。“ちょっと寂しいぐらい”がいい

柳川さんの作風をひと言で表すなら、私は「余白」なのかな、と思いました。
「描いてて寂しいかな、と思うぐらいでいいのかなって。描き込みすぎちゃうと…もうそれで完成しちゃって、お腹いっぱいってなっちゃう。」
器は、料理が盛られて初めて“完成”する。
絵が強すぎると、盛り付けが難しく感じる人もいる。だから、ぎりぎりまで“邪魔にならない”線を選ぶ。描いていて気持ちいいかどうか、という感覚も大切にしているそうです。
そして、器の形もまた「使いやすさ」が先にある。
「盛りやすい形とか、手に持つ感覚とかは気にして作るようにしています。」
体格が良いぶん、放っておくと自分の食べる料に合わせて作品が大きく作りすぎてしまう。
「飯碗作ると、どんぶりかなって大きさになっちゃう」と笑いながら、サイズを意識していると話してくれました。
この“自分の感覚を疑う”姿勢も、料理に寄り添う器づくりに繋がっているように思います。
家具の修理から陶芸へ。京都で基礎を叩き込み、忙しい現場で鍛えられ、独立。
柳川さんの器づくりの根っこには、派手さよりも、日々の反復と、使い手への想像がありました。
そしてもうひとつ、印象に残ったのが「余白」。
それは絵付けだけでなく、素材選びや作りの幅、暮らし方にも滲んでいるようでした。
後編では、柳川さんのこだわる白や線、制作のリズム、そして“使ってこそ”という使い手への思いを掘り下げていきます。