陶芸家 松尾 亮佑さん < First interview > 後編

陶芸家 松尾 亮佑さん < First interview > 後編

前編では、松尾亮佑さんが陶芸の道へ進んだ背景と、作風の核である「中庸」について伺いました。

後編では、松尾さんの制作を支えるもう一つの軸——
“使い手の声を聞き、形を更新し続ける”姿勢に迫ります。

うつわは、使われて初めて完成するもの。
その考えを、松尾さんは驚くほど具体的なディテールに落とし込んでいました。


使い手の声で、器は育つ。サイズも形も“更新”していく

松尾さんの制作に欠かせないものは、お客さまとの対話。
イベントで積極的に会話し、「使いやすかった」「使いにくかった」を細かく拾い上げ、冷静に取捨選択しながらよりよい形へと改良を重ねていく。

たとえば、お茶碗は少しコンパクトに。
口元は食べやすい反りを残し、指が止まる“くぼみ”をつくる。
高台は指が入りやすい深さへ——使う所作まで想像しながら形を決めていきます。

「自分の中では、アートというより工芸の感覚。
使い手が使いやすい形状が“正しい”のかなと思っています」

“表現”を守りながら、“使いやすさ”で完成に近づける。
そのバランス感覚が、松尾さんの器の強さだと感じました。


研究者の視線。心理学のバックグラウンドが活きる場所

松尾さんは、もともと心理学の領域で研究に取り組んできた経験があります。
その視点が、制作姿勢にも重なっている、と語ってくれました。

「どんどんブラッシュアップしていく。終わりがないけど、細部を詰めていく。研究やカウンセリングに近いところがあると思います」

作る→使われる→聞く→直す。
この循環を“前向きに続けられる力”が、器の完成度を押し上げているのだと思います。


暮らしの中の変化。結婚、料理、そして休むこと

2025年に結婚し、身近なところで器が使われる機会が増えた松尾さん。
「松尾亮佑の一番のファン」でもある奥さまからの率直なフィードバックは、制作の支えになっているといいます。

また、以前は月1回休めるかどうか、という時期もあったそう。
今は週1〜2日休めるように調整し、体を守ることも大切に。

「お客さまや妻から心配されるようになって。改善し始めました」

器づくりは、体が資本。
松尾さんが健やかに制作に取り組めるのも、奥さまのサポートあってのことと、
素直に感謝の気持ちを口にする松尾さんは、誠実そのものでした。


趣味はゲームと甘いもの。難所を越える感覚

普段の息抜きの一つは、外で食べる「甘いもの」。
常にフル稼働だからこそ、意識的に喫茶店やカフェへ出かけて、好物である甘いものをいただくそう。
そんな息抜きの時間だからこそ生まれてくる着想もあり、結局はデッサンの時間にもなっている、というのは、常に前に突き進む松尾さんらしいところですね。

意外だったのは、松尾さんが“難しいゲーム”を好むこと。
何度も負けながら、時間をかけて攻略する——その達成感が好きだと言います。

「失敗を怖がる人が多い気がして。
できるまでやる、やれない自分のままにしない、というのは役立ってます」

失敗を前提に、粘り強く積み上げる。
この性格が、制作の継続力につながっているのかもしれません。


これからの展望|“別の作風”へ。内面の葛藤も、器に

今後は、飲食店で使われる器の広がりをさらに増やしていきたい。
加えて、もうひとつ大きな挑戦があると言います。

「今の器は、人から見た自分を意識して作った側面がある。
これとは別に、もう少し尖ったもの、自分の中の葛藤のようなものも作品として出していきたい」

日常の器としての完成度を磨きながら、
もう一つの表現へ踏み出す——次の展開が、とても楽しみです。


最後に|松尾亮佑さんから、当店のお客さまへ

「見た目は重たそうと言われることが多いんですが、実際は薄くて軽いです。
和洋どちらにもとらわれず使えて、サイズ感も日々更新しています。
まずは“試しに”使ってみてほしい。気になったことはDMでも何でも聞いてください」

料理と器の関係を大切にする松尾さんの言葉は、当店のコンセプトとも深く重なります。
“盛られて完成する器”を、ぜひ日常の中で体験してみてください。


後編のまとめ

松尾さんの器が「使いやすい」と言われるのは、偶然ではありません。
使い手の声を拾い、研究のように更新し続ける姿勢。
暮らしの変化も味方につけながら、次は“もう一つの作風”へ。
この先の展開まで含めて、目が離せない作り手です。


お話を伺った作り手

松尾 亮佑

作り手:松尾 亮佑

京都・山科で作陶する松尾亮佑さん。
「中庸」を軸に置くことで、和洋どちらにも寄りすぎない、盛られた料理の美しさを引き出す作品。「チタン釉」によるすこし青みのありながら優しいアイボリー調の釉薬をベースに、金属を筆塗りし、その流れが一点一点、異なる表情を生み出します。